循環器内科

循環器内科のミーティングと手術風景

急性冠症候群をはじめとする冠動脈疾患(心筋梗塞や狭心症など)、また心臓弁膜症、心筋疾患、高血圧症、およびこれらの病気がもとになって生じる心不全、また各種不整脈の診療についての専門科です。

急性疾患は防府市をはじめ近隣の市町からの受け入れが多く、観血的検査・治療としては冠動脈造影検査、経皮的冠動脈形成術、ペースメーカー植込み術(ICD,CRT-D含む)、カテーテルアブレーション(心室頻拍、心房粗動、心房細動など)を行っています。心エコー検査は中央検査部の協力を得ながら多数行っています。
平成25年度より、肺高血圧症に対する専門的な診断、治療を行っています。

平成26年2月より心血管リハビリテーションプログラムを開始し、心疾患患者さんのADL向上と予後改善の取り組みを強化しています。

入院患者について

平成24~26年度入院患者内訳

平成24~26年度入院患者内訳 グラフ画像

肺高血圧症患者の分類(入院延べ患者)

肺高血圧症 class 1 class 2 class 3 class 4 class 5 合計 急性肺血栓塞栓症
(当科入院のみ)
平成25年度 8 182 1 4 0 195 8
平成26年度 3 210 3 4 0 220 10
平成27年度 4 235 1 7 0 247 11
平成28年度 (~8 月) 5 136 2 8 0 151 14

 

病気について

心臓の病気 ~生活習慣病と心不全について~

心不全とはどんな病気ですか?

心臓のポンプ機能が何らかの原因で低下し、全身が必要とする血液を十分に供給できなくなった状態をいいます。心臓の収縮力が低下していなくても起こることがあります。最近、この心不全の定義がわかりにくいとの指摘が各方面からあり、日本心不全学会は平成29年10月、以下のように定義を改訂しました。

「心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です。」

心不全になったら、身体にどんなことが起こりますか?

体を動かすと息切れがしたり、寝ている間に呼吸が苦しくなって目が覚めるようになります。もっと症状が進行すると足がむくんだり、尿の量が減少したりします。

さらに進むと、横になっただけで息が苦しくなり、座っていないと呼吸ができなくなります。この状態を起坐呼吸と言います。

どんな人が心不全になりやすいですか?

高血圧、糖尿病を基礎疾患としてお持ちの方、過去に急性心筋梗塞を発症され治療された方、あるいは、心臓の弁に逆流や狭窄があって心雑音を指摘されている方などが心不全になりやすいといわれています。65才以上の方は、このような症状をお持ちの方が多いので、心不全になりやすいといわれています。

心不全には、慢性心不全と急性心不全があるそうですね。

長期にわたって心臓のポンプ機能が低下し、全身の需要を満たすだけの働きが保てない状態を慢性心不全といいます。数時間~数日程度で症状が起こる心不全を急性心不全といいます。ただし、慢性心不全も急性増悪をおこし、急性心不全のような症状になることがしばしばありますので、厳密には専門家の診断が必要です。

心不全の検査と診断について教えてください。

心臓の動きをみる心エコー検査に加え、胸部X線写真、心電図、血液検査でのBNPという心臓から分泌されるホルモンの数値を参考に診断します。

原因の精査には、心臓カテーテル検査といって、心臓の中にカテーテルを挿入して調べる検査を行います。

慢性と急性では治療法が異なりますか?

少し異なるところはありますが、基本的には心臓にできるだけ負担をかけないような薬剤の選択をして治療するという点では同じです。

生活習慣病と心不全の関係は? また、再発防止や予防するためにはどのようにすればよいですか?

高血圧、糖尿病、動脈硬化の強い方、つまり生活習慣病の患者は心不全になりやすいといえます。バランスのよい食事、塩分を取りすぎない、適度な運動を心がけるといったことも重要です。

最後に・・・

近年、高齢者の人口の増加にともない心不全の患者が著しく増加しています。専門家のあいだでは、これを「心不全パンデミック」と言われています。心不全の症状にお心当たりの方は、お近くの循環器内科を受診されることをお勧めします。

心臓と肺の病気 ~肺高血圧症について~

肺高血圧症とはどのような病気ですか?

肺高血圧症とは、肺に血液を送り出す血管(肺動脈)の血圧が正常よりも高くなる病気の総称です(平均肺動脈圧で25mmHg以上)。現在までに、いろいろなタイプの肺高血圧症が知られていますが、肺動脈そのものに原因がある型は女性に発症する割合が高いことが知られています(男女比 1 : 2.6)。

高血圧とは違うのでしょうか?

一般にいわれる高血圧症とは全く異なる病気です。高血圧症は市販の血圧計で上腕の血圧を測定することで診断できますが、肺動脈圧は、通常の血圧計では測定することはできません。心臓の中に挿入した特殊なカテーテルを用いて肺動脈圧を直接測定します。あるいは、心臓の動きと心臓内の血流速度を測定できる心臓超音波検査を行えば、ある程度の推定値を算出することができます。

どのような症状で起こるのでしょうか?

3週間以上持続するせき(慢性咳嗽)や体を動かしたときの息切れ(労作時呼吸困難)で発症することが多いといわれています。ほかに、全身倦怠感や足のむくみが出ることもあります。子供さんの場合には、運動中に一過性に意識を失ってしまったり(一過性意識消失)、めまいや立ちくらみから病気に気づく場合もあります。

治療をしなかったり、あるいは不十分な治療のままで放っておくと、肺高血圧症は進行し右心室の機能が低下します。進行すると右心不全をおこし致命的な病態となってしまいます。突然死を起こすこともあります。

ただ、これら症状・慢性咳嗽や労作時呼吸困難はこの疾患に特異的な症状ではなく、心臓や肺に異常をきたすあらゆる疾患で起こりうる症状です。そのため、かかりつけ医を受診しても、最初から肺高血圧症を見つけることは、非常に難しいと思います。たとえば、気管支喘息発作や、慢性閉塞性肺疾患(COPD)、あるいは、慢性気管支炎として治療されていたけれど、よくならないので調べてみるとこの肺高血圧症という状態が確認されたという場合もあります。最初に行われた治療で、症状がなかなか改善しない場合、肺高血圧症に精通した循環器専門医のいる総合病院(当院)を受診されることをお勧めします。学会の調査では肺高血圧を発症した患者さんが肺高血圧症を適切に治療できる専門医にたどり着くまでに実に3年半もかかったという統計も出ています。

確定診断はどのようにつけられるのでしょうか?

診断を確定するまでに、まず、数日間の入院が必要になります。肺高血圧症の確定には心臓カテーテル検査を行います。頚部にある静脈から心臓まで柔らかいカテーテルを挿入し、肺動脈圧を測定することで、確定診断ができます。さらに肺動脈圧が上昇している原因を特定するために全身(諸臓器)に問題がないかどうか精密検査を行います。

肺高血圧症にはどのような原因があるのでしょうか?

大きく5つの原因(Ⅰ~Ⅴ型)に分けられます(図1)。肺動脈に狭小化が起こったために血管抵抗が大きくなり肺動脈圧が上昇するものを肺動脈性肺高血圧といいます(Ⅰ型)。左心室の働きが悪くなったために二次的に起こる肺高血圧もあります(Ⅱ型)。肺自体の機能が悪いために起こるものもあります(Ⅲ型)。また、下肢におこった静脈血栓が血流にのって心臓(右心房・右心室)を通り越して肺動脈に塞栓症を起こしてしまうために起こる肺高血圧もあります(Ⅳ型)。その他、全身が影響される複合的な要因でおこる肺高血圧症があります(Ⅴ型)。心臓と肺だけの問題に限らず、なかには肝臓が悪くなって肝硬変になったために起こる門脈圧亢進症性肺高血圧症もあります。また、全身性疾患のなかには、膠原病という自己免疫の異常で起こる病気の臓器症状として、肺高血圧症を起こすことがあります。近年の厚生労働省の調査では、全身性エリテマトーデスの9.5%、混合性結合組織病の16%、強皮症の11.4%に肺動脈性肺高血圧症(1型肺高血圧)をきたすことが報告されています。ほかには、先天性心疾患の術後の患者さんや新生児期に起こった問題の影響で肺高血圧になる場合も報告されています。

図1:肺高血圧症の臨床分類

肺動脈性肺高血圧症(PAH)のステージ説明画像

どのような治療方法がありますか?

治療は上記の1型~5型で治療方法が大きく異なります。1型(肺動脈性肺高血圧)は、肺血管を拡張されるお薬を使います。肺血管拡張薬はこの10年間で画期的な治療薬が数種類利用可能になりましたので、長期的な生命予後が大きく改善してきています。図2は、当院で治療を行った重症肺動脈性肺高血圧症の患者さんの心エコー検査結果ですが、治療前には著しい肺動脈圧の上昇と右心室拡大、右心室から左心室への圧排を生じているのに対し、治療後には右心室、左心室の形態が正常に近づいています。推定肺動脈圧も正常域近くまで低下させることに成功しました。高い肺動脈圧の状態が長期間にわたって持続すると右心不全が進行し、命に関わりますので、重症化した場合は、できるだけ早いうちに肺動脈圧を正常まで下げる薬物療法を開始することが重要です。

Ⅱ型(左心不全にともなう肺高血圧症)は主に左心室のポンプ機能の低下をきたしている心臓の病態を治療します。心臓弁膜症や拡張型心筋症などが原因で慢性心不全、肺高血圧症をきたすことが多いので、心臓疾患の治療を行います。

3型(呼吸器疾患/低酸素血症による肺高血圧症)の場合は、原因となっている肺疾患の治療や在宅酸素療法を併用して治療を行います。

4型(慢性肺血栓塞栓性肺高血圧症)の肺高血圧症は、手術で肺動脈に詰まった器質化血栓を取り除いたり、閉塞しかかっている肺動脈をカテーテルで治療する場合もあります。

5型(原因不明/複合的要因による肺高血圧症)の場合は、原因となっている病気の治療を行います。

図2:持続的PGI2作動薬静注療法の効果

持続的PGI2作動薬静注療法の効果説明写真

もし症状がひどくなった場合は、どうしたらよいですか?

一刻も早く肺高血圧治療に精通した循環器専門医のいる病院へ紹介してもらって下さい。

重症の肺動脈性肺高血圧症(Ⅰ型)の治療は、内服する薬物療法だけでは十分でなく、静注薬による治療を開始した方が、生命予後の改善が期待できます。病院に入院しておられるときだけでなく、自宅に帰られてからも、持続静注を行う必要があるため、当院では、治療と平行して入院中に患者さんに静注療法開始のためのトレーニングを行い、自宅退院へのサポートをします。図は、当院で行っている重症の肺高血圧患者さんの持続的プロスタグランジンI2(PGI2)静注療法の治療の流れです(図3)。診断、治療を行う医師だけではなく、専門的指導を行う薬剤師、看護師も常駐しており、緊急時にも対応できる診療体制をとっています。

図3:肺高血圧症の臨床分類

肺高血圧症の臨床分類フロー画像